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広島高等裁判所 昭和24年(う)706号 判決

被告人

利川正党こと

利正党

外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

被告人等に対し当審における未決勾留日数中各百日を各本刑に算入する。

理由

弁護人辻富太郎の控訴趣意第一点について。

原判決挙示の証拠を個別的に調べて見ると、所論の如くその間に多少の矛盾のあることは認められるが、彼此相矛盾する証拠に依つて一定の事実を認定するところに、綜合判断の妙味があるというべきであつて、ある証拠と多少牴觸する他の証拠を援用したからと言つて理由にくいちがいがあるとはいえない。

(弁護人辻富太郎の控訴趣意)

第一、原判決は第一(三)において被告人両名は金紅圭と共謀の上昭和二十四年八月十日午前三時頃山口県吉敷郡阿知須町字岩倉高津虎之助方に侵入し就寢中の同人に対し馬乗りとなり、所携の木捩子廻を突き付け「声を立てるとこれだぞ」等申向けて脅迫し其の反抗を抑圧した上、同人所有の男物紋付羽織一枚外衣類十一点を強取したと判示している。しかし各事実認定の証拠として挙示している被告人両名の原審公判廷における供述及び検察事務官作成の供述調書に依ると被告人両名は八月九日の夜金紅圭から何処か泥棒に行かうかと誘はれて、木捩子廻と風呂敷を持つた同人について、山口市大字佐山字新地の金尾長吉方を出たが途中犬が吠えたので被告人両名は逃げて金尾方へ帰つたので、金紅圭が何をしたか知らなかつたが金尾方で寢ていたところえ金紅圭が帰つたと云うのである。原審公判廷に於ける証人高津虎之助の証言に依ると同人は判示日時がたつと云う音に目が覚めたので誰かといい更に孫かと思つてタカ子かと申したところ自分を突いて来たのでよく見ると大きな男が来て居り目の前に匕首を突きつけ片手で胸倉をつかんで賊が二人居るので何んでも持つて帰れと申した。自分は耳が遠いので賊が何を申したか判らないと云うのである。

同証人高津フジコの証言に依ると被害十二点は父母のものばかりと云うのである。又高津虎之助提出の強盜被害届に依ると犯人は高津虎之助の胸ぐらをつかみ一尺位あると思はれる匕首を顏面に突きつけ、物品を強要し男物紋付羽織、女物單衣長着、同羽織、男物單衣羽織、女物袷羽織、男物單衣長着、男物袷長着、女物袷長着、女物袷羽織、袴、男物羽織、赤地の布片を取つたとなつているのである。それで之等の証拠と爾余の原判決挙示の証拠とを綜合するも原判決の判示事実を認めることはできない。加之判示事実と証拠とは著しくくいちがつている。之を例示すると(一)高津虎之助の右証言及び被害届に依ると同人方に侵入した賊は二名か三名か判然しないが、内一名は匕首を同人の胸に擬して脅迫しているから匕首を携帯した者がいた筈に拘らず、被告人両名及び金紅圭は匕首を所持して居らないのである。尤も前記被告人両名に対する検察事務官の供述調書に依ると金紅圭が木捩子廻を携帯していたことが明らかであるけれども匕首と木捩子廻とを見違えることは考えられないから高津虎之助方へ侵入した賊は被告人等以外の者と断ぜざるを得ない。(二)被告人等が就寢中の高津虎之助に馬乗りとなり脅迫した証拠は全然存在しない。(三)被告人等が高津虎之助に対し「声を立てるとこれだぞ」等申向けたとするも同人が之を聴取し得なかつたことは同人の前記証言に依つて明らかであるから「声を立てるとこれだぞ」等申向けて脅迫したとする原判決の此の部分は、虚無の証拠に依つて事実を認定したことになる。(四)前記強盜被害屆及び原審証人高津フジコの証言に依ると被害品の内男物は高津虎之助の所有なるも女物は同人妻の所有なること明らかなるに拘らず高津虎之助の所有としたのは証拠に基かぬ独断である。仍て原判決は此点において判決に理由を附せず又は理由にくいちがいがあるか或は事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすこと明らかであると云はねばならない。

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